森林の植物の種子散布について

Takahashi K., Kamitani T., 2004. Effect of dispersal capacity on forest plant migration at a landscape scale. Journal of Ecology 92: 778-785.

 今日の論文紹介はMさん。春先から上記論文を読んでもらっていたのですが、今日で完結。
 新潟市の海岸砂丘には防砂のために幅約200m(50-400)にわたってクロマツが植えられています(少なくとも44年以上前に成立)。このクロマツ林には現在、クロマツ以外の樹木、草本が生えています。人工的に作られた林ですから、クロマツ以外の種は近くの自然植生からもたらされたものだと考えらえるのですが、半径20km内で自然林というと海岸にそびえる角田山になります(クロマツの人工林帯の西端が角田山に繋がっています)。
 ということでこの論文では、角田山からの距離0.1kmから17.4kmにわたって7つの調査区を設定し、植生調査を行い、ソースと考えられる角田山の植生と比較、出現種を種子散布様式ごとに分類し、散布距離や種多様性について考察しています。
 結果としては自然林からの距離と種多様性、樹木の密度の間に負の相関がみられました。また種子散布と散布距離の関係については『被食(32.8km)>付着(27.2km)>>風(羽毛)(6.4km)>貯蔵(1.0km)>風(翼果)(0.5km)>重力(<0.1km)(カッコ内は種数が半減する距離)』となりました。アリ散布、機械散布、栄養繁殖の各散布方法をとる植物は人工林では観察されませんでした。アリ散布は自然林では37種確認されれているのにもかかわらず人工林ではゼロ、ということですからやはり散布が限定的なようです。ちなみに種子重と散布距離には有意な関係は見られませんでした。
 大学のすぐ近くの植生の特徴をよく理解し、それを生かして研究が組み立てられていて「うまいなあ」と思ったのでした。しかも調査にお金もかかっていなそう。研究はアイデア次第だと再認識させていただきました。今日の写真は私の部屋からのクロマツ林眺め。