ワレモコウSanguisorbaの自然史

 今日は学芸ゼミで外来研究員のN橋先生(元富山大)のワレモコウの話を聞くことができました。とても勉強になりました。N橋節は絶好調で楽しいひと時を過ごすことができました。
 以下、聞いた話のメモ。

●語源:吾亦紅、吾木香などの色や匂いに基づく語源が知られているが、N橋先生は簾についている布地の帽額くわ紋に由来する説を支持したいとのこと。確かに紋の形がワレモコウの花に似ている。ラテン語のSanguisorbaはリンネが記載したころは止血剤と使われていたこと(今もそうかは調べていません)ことから「sanguis-血」「sorbes-吸う」の二つの語を合わせている。
●分類・分布:属を細かく分けるかで種数は変わるが2-30種の様々な説。N橋説に沿えば日本には8種1変種(ワレモコウ、ミヤマワレモコウ、チシマワレモコウ、ナガボノワレモコウ、シロバナトウウチソウ、カライトソウ、ナンブトウウチソウ(早池峰のみ)、エゾトウウチソウ、タカネトウウチソウ)。種間雑種は色々できる。風媒花と考えられるカライトソウ(後述)と虫媒花のミヤマワレモコウの間にもハッポウワレモコウという雑種ができる。ワレモコウは分布が広くユーラシア大陸亜熱帯〜冷温帯、アメリカ大陸東岸と西岸に分布。
●花形態、花序:萼4、雄しべ4(ただしカライトソウは6-12)、雌しべ1、心皮1。穂状花序。花序の咲き方には2通りあり、求頂花序(下から咲き始める無限花序)と求基花序(上から咲き始める有限花序)。タカネトウウチソウとエゾトウウチソウは求頂花序だがそれ以外は求基花序。しかし、ワレモコウは花序の下側の花の方が大きく、もともとの成長パターンは求頂花序で、これが成長が止まった後に上から咲き始めているとのこと(文献メモし忘れ)。開花パターンはポリネーターに影響を受けているのでは?とのこと。
●花粉形態:バラ科は基本的に三溝孔粒。ワレモコウは見た目は6溝あるように見える。これは爪と呼ばれる部分が大きくなったためと考えられている。他に爪があるものはキンミズヒキ属やキジムシロ属など。
●染色体:基本数7(バラ科は一般的に7、8、9)。ワレモコウ属は4、6、8、12倍体。これはワレモコウ属が複二倍体であることによる。各倍数体の分布は地域性があり、北に行くほど高次倍数体になっている種もある(種名書きそびれ)。
●化学成分:Oligomerのタンニンを持つ。食害に対する防御に効いていると思われる。ちなみに、木本性のバラの多くはMonomerのタンニン。
●分子系統:葉緑体DNAの系統樹では大きく2グループに分岐。形態を反映していない。AdhやITSを近縁属を含めて解析するとワレモコウ属やキンミズヒキ属は属間雑種起源であることが推定されている(文献メモ忘れ)。
●送粉について:ワレモコウなど花盤があるものとカライトソウなど花盤が無く、雄しべが長く比較的花糸が扁平な2タイプがある。前者は虫媒花、後者は風媒花と考えられる。花形態から進化傾向を考察すると、ワレモコウ型からカライトソウ型が進化したのではないかと推定される。※ただし、本当に風媒かどうかは検証が弱い。また分子系統樹からははっきりとは支持されていない。
●ゴマシジミとの関係:ゴマシジミはワレモコウのつぼみに卵を産み、花を食べて成長する。そこにやってきたシワクシケアリなどに蜜を与えることにより、アリの巣に運んでもらいその後はアリの幼虫を食べて過ごす。ワレモコウのほかにもナガボノワレモコウやカライトソウにも卵を産むらしい。※ついでに風媒といっているカライトソウで花粉を媒介していそうだが、定かではないらしい。

 日本だけではなく他の国のサンプルも集めて調査しなければ解決しないことが多いなぁ、と思いました。また虫媒と風媒の話はとても面白かったのですが、きちんと検証する必要があるでしょうね。