Sagittaria latifoliaにおける性のあり方

 ヒロハオモダカの論文を書く際に、ナガバオモダカが雌株しかないことに触れたくなり、オモダカ属の性型の進化についてちょっと勉強をしました。で、S. latifoliaの研究についてちょっと紹介。
 S. latifoliaで雌雄異花同株、両全性株、雌雄異株と様々な性型が存在し、性の進化の研究に向いた植物と言われてきました。カナダのBarrettのグループが長年研究していましたが、彼らは2004年に網羅的な交配実験を行い、S. latifoliaではオスにする遺伝子座(Mとm)とメスを不稔にする遺伝子座(Fとf)の二つの遺伝子座が関わっていることを遺伝学的に明らかにしました(Dorken and Barrett, 2004)。これは昔から雌性両性異株(雌株と両性株が存在するタイプ)を経て雌雄異株になる場合の理論的な予想とよく合っていました。雌雄同株ではMMffの遺伝子型(表現型は♂♀;雌雄異花同株と両全性株)。で、オスにする遺伝子に突然変異が生じてmができると・・・、mmffの遺伝子型(表現型は♀)と、Mmffの遺伝子型(表現型は♂♀)と混在することにより雌性両性異株になります。更にメスを不稔にする遺伝子に突然変異が生じてFができると・・・mmff(表現型は♀)とMmFf(表現型は♂)が混在することになり、雌雄異株になるということみたい。で、MとFが同一染色体に乗っている場合、組み換えが生じることによりまた雌性両性異株に戻るというシナリオらしい。

 ・・・ということで、久しぶりの休みに色々と論文を読んで幸せな気分になったのでした。意味わからん、という人は下の論文を読んでみてください。

 ちなみに写真はナガバオモダカの花序。こちらは雌雄同株のはずが、なぜか日本に定着しているものは雌株しかありません。雌雄異株化が進んだのか?なんらかの理由で雄花ができないのか?そもそも雌雄異株で知られていなかったのか?よくわかりませんが、今後の研究課題でしょう。


【参考文献】
●Sarkissian, T. S., Barrett, S. C. H., and Harder, L. D., 2001. Gender variation in Sagittaria latifolia (Alismataceae): Is size all that matters? Ecology 82: 360-373.
●Dorken, M. E., Friedman J., and Barrett S. C. H., 2002. The evolution and maintenance of monoecy and dioecy in Sagittaria latifolia (Alismataceae). Evolution 56(1): 31–41.
●Dorken, M. E., and Barrett S. C. H., 2004. Sex determination and the evolution of dioecy from monoecy in Sagittaria latifolia (Alismataceae). Proc. R. Soc. Lond. B 271(1535): 213–219.